監督 ケン・ローチ
脚本 ポール・ラヴァティ
音楽 ジョージ・フェントン
出演 バリー・ウォード、シモーヌ・カービー、ジム・ノートン、アンドリュー・スコット[俳優]、フランシス・マギー、アシュリン・フランシオーシ、ブライアン・F・オバーン
[DVD] ジミー、野を駆ける伝説 |
~~~~~~~~~以下、ネタバレありです~~~~~~~~~~~~~~~~
【あらすじ】
イギリスの支配と抑圧から独立を勝ち取ったアイルランド。
しかし、独立後のアイルランドで、民衆はカトリック教会と新政府の支配に苦しんでいた。
「アイルランドらしさ」を国民に押し付け、カトリック教会の独裁を善しとし、土地を持たない小作人や貧しい人々はアメリカに出稼ぎに行くか、仕事もなく学校や娯楽もないまま耐えるしかなかった。
そこへ、アメリカの不況を機に故郷へ帰ってきたジミー・グラルトン。
彼は10年前、自分の土地と財産を提供し村人有志とともに村民会館(ホール)を造り運営していた人物。
ホールでは伝統的な踊りや音楽、文学や絵画などを無償で教え、文化的な楽しみを人々の暮らしに与えていた。
しかし、「教育は教会によってのみなされるものだ」とされ、カトリック教会にはむかう無神論者だ、宗教を否定する共産主義者だと弾圧され、逮捕されそうになったジミーはアメリカに逃亡するしかなかったのだった。
10年たち帰国して、老いた母に寄り添って今度こそ静かに暮らそうと思っていたジミー。
10年前に別れるしかなかった恋人とも再会したが、人妻となっていた彼女とは心を通わせることしかできない。
しかし、ジミーの功績を知る村の若者たちから「ホールを再開して自分たちに楽しむ場所を与えてほしい」と熱望される。
かつての同志たちもそれを期待しており、ジミーは再びホールの再建を決意する。
よみがえったホールに村人が集い、音楽とダンスに熱狂する。
そこには、アメリカからジミーが持ち帰った新しい文化、ジャズもあった。
貧しい人々が団結し、意志を持つことを危惧した金持ちとカトリック教会の神父は、再びジミーとホールを規制しようとする。
ホールは危険なものではない、人々がともに楽しむことで皆善良になるのだと神父を説得しようとしていたジミーだったが、
地主から追い出されて幼い子供ごと家を失った小作人を助けるために力を貸して欲しいとIRAに依頼され、ついに活動家として実力行使の旗頭に立つことを決意。
小作人はもとの家に戻ることができたが、祝いのパーティーの夜にホールは警官たちに銃撃を受け、火を放たれてしまう。
ジミーには国外退去命令が下り、母の機転で逃亡して身を隠すも、隠れ家もついに見つかってしまったジミーは逮捕される。
老いた母と今生の別れをすることも許されずに手錠をかけられ、馬車で護送されるジミー。
そこへ自転車に乗ったたくさんの若者たちが駆けつけ、あなたの残してくれたものは忘れずに伝えていくと約束し、見送ってくれるのだった。
Ancient Chapel Ruins – HDR by Nicolas Raymond
【感想】
アイルランドが貧しかったこと、イギリスに搾取されて苦しんでいたこと、アイルランドのカトリック教会はイギリスの新教徒に弾圧されていたことは、貧困のためにアメリカなどへ移民していったアイリッシュが多かったこと……
これが、この映画を観る前に私がアイルランドの歴史について知っていたことです。
添乗で何度かアイルランドへ行き、観光案内に必要な歴史的背景ということでお客様にもそうお話していました。
それは一面的な見方にすぎなかったことを、この映画で初めて知りました。
宗教と政治が絡み、複雑です。
この映画ではジミーは無欲でひたすら誠実な伝説の英雄として描かれていますが、実際にはどうだったかというと、諸説あるのではないかと想像します。
映画の感想なので、彼の功罪については、ここでは検証しません。
映画の中での彼は人々を政治的に感化させる意図をもつ「共産主義者」としては描かれていないと感じました。
他のアイリッシュと同じ程度の信仰心や、教会への敬意も持っていたように見えます。
ただ、時代的にも、労働者の権利や自由を自分たちの手で得ていこう、権利を主張しようとすると、どうしても共産主義と無縁ではいられなかったのだろうとも思います。
神の名のもとに貧しい人々の現状を黙殺しているカトリック教会のやり方に疑問をもつ、それだけで許されない異端とみなされる時代だったからです。
仲間のために立ち上がり、自分を犠牲にしても戦う。
老いた母を守って穏やかに暮らす、再会できた恋人のそばにいることを犠牲にせざるを得なくなることは予想していながら、
周囲の期待を裏切れなかった。
現代においては難しい生き方で、そこまで一貫した生き方ができることには素直に憧れを感じました。
周りの人々、特に母親と恋人も立派です。
個人的には息子に、恋人にそばにいてほしいと願うでしょうが、彼の「役割」の必要性を理解していたから、支え、ともに戦いました。
お母さんは太った農家のおばあちゃんですが、なかなか教養と知恵のある人でした。
神父や警官がやってきてもお茶を出して懐柔しつつ、時間を稼ぎつつ、息子を逃がす。
警官が息子を追いかけていけないようにドアの鍵をしめて鍵をブラジャーの中に隠し、「鍵をどこにやったかしら…わからないわ」ととぼけるところは、緊迫した場面でありながらもユーモアを感じました。
このおばあちゃんは後の裁判の席で発言を許され、素晴らしいスピーチをしています。
尊敬すべき偉大な母でした。
恋人の女性も、別れた時にはまだ若く美しかったのでしょうが、10年後の再会ではすでに2人の子の母となっています。
肌はおとろえて、笑うとしわが目立つようになっています。
それでも、別れてからずっと自分を思い続けていてくれたジミーに「きれいだよ」と言ってもらえるシーンはとても切なかったです。
2人ともお互いを愛していることはわかっていても、決して間違いは犯さない。
恋人の夫も、彼女の子供たちも、他人ではなく村の仲間だから。
2人に許されるのはダンスと抱擁だけ、キスさえ、しそうで、結局しませんでした。
純愛!
舞台はアイルランドののどかな田舎町だけ。
地味ではありますが、そういう風景の好きな人にとってはたまらないと思います。
氷河谷地形、弱い太陽光、泥炭を掘る風景、馬車に高く積まれた干草。
誰かの家の台所に集まる村人たちの気取らないパーティーの様子。
服装も野暮ったくて地味だけど、そこが素朴な味わいを感じさせてくれました。
Gc365day330 by Greg Clarke
ヴァイオリンとタップダンスはアイルランドの伝統芸能ですが、そのシーンも多く出てきて楽しめました。
天使のような少女が見事にヴァイオリンを奏で、軽快な足運びで踊る。
老いも若きも肩を組んで輪になって見事な息の合い方のダンス。
舞台衣装ではなく日常の地味な服装のまま華麗な音楽とダンスをするところが、個人的にすごくツボでした。
アイリッシュダンス、ケルティックダンス好きな人にも観てほしい映画です。
映画では、父親世代の男性1人と息子世代の青年2人で踊るシーンがありました。
腰が痛くて座ってるおじさんが、見てるうちにウズウズ…
「見てられん!俺にも踊らせろ!」と飛び入りしてきて、
時々、「あうっ!」と腰を押さえながらも踊るのをやめられなくて、
若者たちと腕を組んでクルクル回ったりしてました。
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